予備知識ゼロからの USB PD 入門

“USB充電器って、+と−の2本でつながっているだけじゃないの?”

充電器とスマホ、
じつは会話してます。

電気を運ぶだけではなく、「どの電圧で、どこまで使っていい?」と相談する。それが、いまのUSB-C充電を理解する入口です。

01

「+と−だけ」は、半分正解。

電気を届けるには、行きと戻りの道が必要です。ただ、USB全体の仕事は給電だけではありません。ここでは、両端がUSB-Cの充電を、3つの役割に分けて見てみます。[2][3]

充電器
+ 電気を届ける道 · VBUS
− 電気が戻る道 · GND
条件を相談する道 · CC
スマホ
役割を分けた模式図です。実際のUSB-Cには複数の電源端子やデータ用端子などもあり、「中の線が必ず3本」という意味ではありません。配線図ではありません。
VBUS / GND

電気の通り道

VBUSが電源側、GNDが戻り側。USB PDで話がまとまると、VBUSの電圧を変更できます。

CC

接続確認と、相談の通り道

相手がつながったことやプラグの向きを調べる役割があります。USB-CのPD通信も、このCCの経路で行われます。「会話」は声ではなく、短い電気信号で伝えるメッセージです。

USB DATA

写真やファイルの通り道

充電の相談と、写真などのUSBデータ通信は別の仕事です。USB-Cという同じ形でも、充電能力とデータ転送速度は同じとは限りません。

USB-Cは「差し込み口の形」。USB PDは「電源の相談ルール」。

USB-Cだから必ずPD対応、必ず高速充電、必ず映像も出せる、とは言えません。端子の形と、その製品ができることを分けて考えると、ぐっと整理しやすくなります。[4]

02

数字は、3つだけ知っておこう。

まずは意味の違いがわかれば十分です。暗記する必要はありません。

V

ボルト / 電圧

電気を流そうとする強さ

水でいう水圧に少し似たイメージ。5V、9V、20Vなど、相談で選ぶ条件の一つです。

A

アンペア / 電流

実際に流れる電気の量

正確には、1秒あたりに流れる電荷の量。つないだ機器の働き方で変わり、いつも上限まで流れるわけではありません。

W

ワット / 電力

その瞬間に使うエネルギーのペース

USBの直流では、電圧V × 電流A。電圧が9V、実際の電流が2Aなら18Wです。

水のたとえは、意味をつかむためのイメージです。電気と水がまったく同じ動きをする、という説明ではありません。

V と A を変えてみる

この数値なら
18 W

9 V × 2 A

これは掛け算を見るための計算機です。機器への電圧要求や、実測・対応判定は行いません。

03

つないだ直後の会話を、のぞいてみよう。

ここでは、5Vから9Vへ切り替える成功例を見ます。充電器は出せる条件を伝え、スマホはその中から希望を選びます。勝手に高い電圧になるわけではありません。[2]

説明用の再現です。実際の機器・通信・測定には接続していません。拒否、再試行、細かな受信確認などは省いています。

まず、つながったことを確認

接続の確認

相手がつながったね。まずは5Vから。

これはCCによる接続検出の説明で、ここに書いたセリフがそのままPDメッセージとして流れるわけではありません。

Attach / 5V

充電器が「メニュー」を出す

充電器 → スマホ

5V、9V、15V、20Vを出せます。それぞれ最大3Aまでです。

出せる電圧や電流の条件を伝えます。このメニューの1項目にあたる情報がPDOです。この例は最大60Wのメニューです。

Source_Capabilities

スマホが使いたい条件を伝える

スマホ → 充電器

では、9V・最大2Aの条件を使わせてください。

機器が使える条件を選んで要求します。2Aはこの例で要求する電流の上限で、常に2Aを流すという命令ではありません。

Request

充電器が了承して、準備する

充電器 → スマホ

了解。いまから9Vに切り替えます。

Acceptは条件への了承です。この返事だけを見て、すでに9Vで充電できていると判断するのは早い段階です。

Accept

準備ができたことを知らせる

充電器 → スマホ

9Vの準備ができました。どうぞ!

PS_RDYは電源準備完了の通知です。スマホは合意した条件内で電気を使います。実際の電流と電力は、別に測らなければわかりません。

PS_RDY

最初から何も流れない、という意味ではありません。規格に沿うUSB-C接続では、接続を確認して5Vの供給が始まり、必要ならPDで別の電圧を相談します。5Vのまま使う機器もあります。[2][3]

「18Wまで使っていい」と「いま18W使っている」は、別の話。

レストランで大きなメニューを渡されても、全品を一度に食べるわけではないですよね。充電器が示す出力は出せる条件。機器が実際に使う量は、電池残量、温度、画面の使用、機器内の充電制御などで変わります。[1]

9Vは、バッテリーへそのまま直結される?

そうではありません。USBから受け取った電源は、スマホ内の電源・充電回路で調整され、機器の動作やバッテリーの充電に使われます。USB側で見た電圧は、電池そのものの電圧とは別です。

04

ケーブルも、ただのひもではありません。

充電器とスマホが対応していても、ケーブルが同じ条件に対応している必要があります。速さや大きな出力は、充電器だけで決まりません。

充電器

どの条件を出せる?

ケーブル

その電圧・電流に対応する?

機器

どの条件を受け取れて、いま何を必要とする?

中に「名札」を持つケーブルもある。

e-marker(イーマーカー)という小さなチップが、ケーブルの対応能力などを伝えることがあります。すべてのケーブルに入っているわけではありません。たとえば3Aを超える電流やEPRを使うには、それに対応する電子マーク付きケーブルが必要です。[2]

名札の読み取りだけで、線材の品質や実際の出力を試験したことにはなりません。充電対応とデータ転送速度の表示も別々に確認します。

05

たぶん、ここが気になる。

240Wの充電器につなぐと、スマホへ240Wを押し込むの?

規格に沿って動作する組み合わせでは、そうなりません。240Wはその充電器が条件次第で出せる最大の能力です。機器が受け取れる条件を相談し、機器が必要な電気を使います。240W充電には機器とケーブル側の対応も必要です。

同じ充電器なのに、満充電に近づくと遅くなるのはなぜ?

電池を管理する機器側が、充電を進めるにつれて電流を減らすことがあります。温度や動作状態でも変わります。表示された電力が小さいだけで、充電器の故障とは限りません。

USB PDに対応していないと、USB-Cでは充電できない?

いいえ。USB-CにはPD通信を使わず、5Vで給電する仕組みもあります。CCを使った接続検出や電流能力の通知と、PDメッセージのやり取りは区別します。

USB-Aの四角い充電器も、同じ相談をするの?

このページは現在一般的なUSB-C同士のPD充電の説明です。USB-Aでは、D+/D−などを利用する充電方式もあり、同じ仕組みとは限りません。「昔のUSBも必ず2本線だけ」という意味でもありません。

PPSやEPRって何? 今は覚えないとダメ?

今は名前だけで十分です。PPSは対応範囲で電圧を細かく調整する仕組み。EPRはより高い電圧を扱い、最大240Wまで広げた電源範囲です。EPRにも専用の手順があり、ただ48Vをつなげばよいわけではありません。

パソコンからスマホを充電できるのは、なぜ?

電気を出す役はSource、受け取る役はSinkと呼びます。コンセント用の充電器だけがSourceとは限りません。両方の役ができる機器もあり、対応していれば役割の交換もできます。

ログを読むときの、小さな辞書。

USB PD
電源の条件をやり取りするためのルール。PDはPower Deliveryの略。
プロトコル
機器どうしが理解できる、メッセージの形式や手順の決まり。
Source / Sink
電気を出す側/受け取る側。充電器とスマホの例では、この順番。
PDO
充電器が示す電源メニューの1項目。対応電圧や電流などの条件を含む。
GoodCRC
メッセージを受け取ったことへの確認。電源条件を了承するAcceptとは別。
PS_RDY
電源の準備ができたことを知らせるメッセージ。実際の消費電力の測定値ではない。

ここまでわかったら、もう実際の会話が読めます。

専門用語を全部覚えなくても大丈夫。「メニュー → お願い → 了解 → 準備できた」の順番に注目してみてください。

説明の範囲と参考資料

USB-C同士の一般的なUSB PD接続を、入門向けに簡略化しています。全メッセージ、全充電方式や規格の細則を網羅するものではありません。図と会話は本ページ用に作成した説明用のものです。

  1. USB-IF:USB Power Deliveryの概要と240W
  2. Texas Instruments:USB-Cの基礎とPD交渉(PDF)
  3. Microchip:CCとVCONNの役割
  4. USB-IF:USB Type-Cの概要